ピッチの脇で声援を送りながらーー
「わが子がゴールを決める瞬間をもっと見たい」
「いつか日本代表になってほしい」
と胸を熱くする方も少なくないはずです。
ところが近年の日本サッカーを振り返ると、久保建英選手や三笘薫選手のような華麗なアタッカーや、遠藤航選手、冨安健洋選手のように世界で高く評価される守備的選手は増えた一方で、肝心のフォワード(FW)は“世界との差”を埋め切れていないと言われます。では、私たちが育成期の子どもを支えるうえで何を意識すれば、この壁を乗り越えられるのでしょうか。
点を奪う使命の「シンプルさ」と「奥深さ」
元日本代表の岡崎慎司選手は、自らがアマチュアチームを率いる中で「フォワードに求めるのは、何より点を取ることだ」とあらためて痛感したと語ります。
奈良クラブのアカデミーテクニカルダイレクター兼ユース監督を務める内野智章さんも「どんな形でもゴールを決め切れる選手」の重要性を強調します。シュート15本で無得点に終わった試合を例に、確率や見映えよりも「泥臭くても結果を出すメンタリティ」がチームの命運を分けると指摘しました。
サッカーママ・パパが日常でできるのは、華麗なドリブルや長いパスだけを褒めるのではなく、ゴール前でもがきながらボールを押し込む姿勢を称えることです。「ボールを持ったらまずゴールを意識しよう」「体のどこに当ててもいいからネットを揺らそう」と声をかける習慣が、子どもの中に“点取り屋”のDNAを芽生えさせます。
「うまい」とは何か——試合で生きる技術の再定義
日本ではリフティングや華麗なタッチを見せる選手を「うまい」と評価しがちですが、岡崎選手自身は「余計なことをしないで点を取れることこそが自分の強み」と言います。
海外で長く育成に携わる木村暁さんも「練習の妙技が試合中に再現できない選手は上のカテゴリーで苦しむ」と語りました。つまり、技術の真価は実戦で発揮された瞬間にのみ証明されるのです。
お子さんのプレーを見守るときは「そのフェイントは本当に試合で役に立ったか」「今の選択はゴールに直結したか」という視点を持つことが肝心です。プレッシャー下での判断力と発揮できる技術が揃ってこそ、世界基準の評価に耐えうる「うまい選手」へと進化します。
育成現場に潜む“世界との差”
内野さんは「日本の育成は丁寧すぎて、ゴール前でシュートを打つ機会が少ない」と現場の実感を語ります。
パスワークで崩す美学が根付く一方、シュートの経験値は欧州や南米の同年代に遅れを取ることが少なくありません。シュートは反復して初めて精度が上がる動作であるにもかかわらず、トレーニング自体が足りなければ“世界との差”は開く一方です。
しかし環境の問題を嘆くだけでは前に進めません。そこでカギになるのが、サッカーママ・パパが家庭で担う“育成の延長戦”です。
家庭で実践できる“ゴール感覚”の育成法
たとえば放課後に公園でミニゲームを行い、ゴールをコーンで簡易的に作って「5分で何点取れるか」を競うだけでも、子どもは自然とゴール前の動きやシュートコースを工夫し始めます。
壁当てをする場合でも「壁に当てたボールをワンタッチでゴールに叩き込む」「ワンステップでシュートモーションに入る」など、点を取るイメージとセットにすれば実戦感覚が養われます。
さらに、泥臭いプレーを肯定する言葉がけが大切です。「体ごと飛び込んでボールを押し込んだ場面、格好良かったね」「相手より一歩速くゴール前に入ったからこそ得点が生まれたよ」と具体的に指摘すれば、子どもの中に“勇気ある一歩”を踏み出す価値が定着します。また、フィジカル面では十分な睡眠とバランスのよい食事を心がけ、「丈夫な体が点取り屋を支える」ことを日常の会話で伝えていきましょう。
未来のフォワードを育むために
フォワードに求められるのは、シンプルにして究極的な「ゴール決定力」であり、その裏側には“試合で生きる技術”と“ゴールへの強烈なメンタリティ”が不可欠です。日本の育成環境には確かに課題が残りますが、サッカーママ・パパが日常の中でゴールを意識させる働きかけを続ければ、子どもたちは自ら壁を越える術を学んでいきます。
夜空に浮かぶ月が厚い雲に隠れても、その輝きが消えることはありません。
同じように、世界基準という大きな雲の向こうには、必ずゴールという光が存在します。親である私たちは、その光を指し示すコンパスであり、時に雲を吹き払う追い風にもなれる存在です。
今日の声かけ一つ、遊びの中のひと工夫が、未来のゴールシーンへとつながります。
どうか、世界との差を恐れず、育成の現場を家庭まで広げる意識で、子どもたちを照らし続けてください。
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